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東京高等裁判所 昭和48年(う)3255号 判決

控訴人 被告人

被告人 塚野酒造株式会社 外一名

弁護人 荒井尚男 外一名

検察官 岩田農夫男

主文

原判決を破棄する。

被告人塚野酒造株式会社、同塚野重喜次をそれぞれ罰金三、〇〇〇円に処する。

被告人塚野重喜次が右罰金を完納しないときは、金一、〇〇〇円を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置する。

本件公訴事実のうち、被告人両名の非防水型コードコネクターの使用に関する各労働基準法違反の事実、ならびに、被告人塚野重喜次の小林豊市に対する業務上過失致死の事実については、いずれも無罪。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人荒井尚男、同長谷川修が連名で提出した控訴趣意書および昭和四九年二月六日付控訴趣意補充書に記載されているとおりであるから、これらを引用し、これに対し次のとおり判断する。

一、控訴趣意のうち、原判示の業務上過失致死の事実についての事実誤認を主張する点について。

論旨は、原判決は、被告人塚野重喜次(以下、被告人塚野という)が、原判示の洗浄機およびコードコネクター(以下、本件洗浄機、本件コードコネクターという)の使用に際し、感電防止に必要な措置を講じなかつたために、本件コードコネクターが水にぬれて漏電し、その結果、原判示の小林豊市(以下、本件被害者という)が感電死した旨認定しているけれども、本件証拠上、本件コードコネクターが水にぬれて漏電したこと、ならびに、本件被害者の死因が感電死であることを断定することはできず、また、被告人塚野は、右感電防止のための措置を講じていたものであつて、本件事故につき予見可能性がなく、同被告人の右業務上過失致死の点は無罪であるから、原判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認がある、というのである。

そこで、記録を調査し、当審における事実の取調の結果を参酌して検討すると、

(一)  まず、原判決が挙示する各証拠によれば、被告人塚野は、肩書本店所在地で酒造業を営む相被告大塚野酒造株式会社(以下、単に被告人会社という)の常務取締役であつて、同会社のびん詰めに関する業務を掌理していた者であること、昭和四六年六月二一日同会社の洗びん場において、同会社の従業員である本件被害者小林豊市(当時四一歳)が、本件洗浄機を使用して洗びん機を洗浄する作業に従事していた際、本件洗浄機の電気コードと継ぎ足し用の電気コードを接続する本件コードコネクターが、防水型のものでなかつたために、その内部の通電部分に水がしみこんで漏電し、本件洗浄機に漏電しや断装置が接続されておらず、また、これが接地されてもいなかつたために、本件被害者が、右漏電した電気に触れて、その場で感電死したものであることを認めることができる。

この点につき、所論は、本件において、本件被害者が感電死したものと断定しうる証拠はなく、同人の死因は、過労と飲酒した状態で作業をしたために、急性心臓まひを起こしたものとの疑いがある旨主張し、なるほど、本件証拠上、同人が、本件当時、多少疲れており、また、出勤前に若干飲酒していた事実を窺うことができるけれども、当時、同人は、身体が衰弱する程度に疲れていたり、多量に飲酒していたものではなく、また、同人が当時行つていた作業の内容は格別重労働を要するものでもなかつたことが認められるから、同人の過労と飲酒が死亡の一因となつたことをまつたく否定することはできないとしても、それのみの原因で同人が死亡したとは、とうてい考えられないのであつて、このことと、原判決が挙示する各証拠によつて認められる本件当時の事故現場の状況および同人の死体解剖の所見を総合して考察すると、同人は、右のとおり本件コードコネクターから漏電した電気に感電した結果、死亡したものであると認める他はなく、したがつて、右所論は採用できない。

(二)  そこで、次に、被告人塚野が、本件事故の発生を予見し、または、予見しえたものであるか否かにつき検討すると、まず、原判決が挙示する各証拠、ならびに、当裁判所の検証調書および証人樋口富士夫に対する尋問調書、検察官作成の実況見分調書、当審における被告人塚野および被告人会社代表者塚野敏雄の各供述を総合すると、本件洗浄機が使用されていた状況につき、

(1)  本件当時、本件洗浄機は、その本体の後部から出ている電気コードに、本件コードコネクターで、長さ約一五メートルの継ぎ足し用電気コードを接続し、その先端を洗びん場東側の電源ソケツトに差しこんで使用されていたこと、

(2)  本件洗浄機は、使用電圧二〇〇ボルト、電流六・六アンペア(五〇サイクルの場合)の電動機により、その本体の前部から出ているゴムホースから高圧の水を噴射できる構造となつていて、ゴム製の四輪の車が付いた移動型の洗浄機であつたこと、

(3)  本件洗浄機の電気コード、右継ぎ足し用電気コード、その電源側のコネクターは、いずれもゴムで被覆されていて、通電部分に水が入らないようになつていたが、本件コードコネクターは、ベークライト製で防水型のものではなく、外部からの水が通電部分にしみこむことが可能であつたこと、

(4)  本件洗浄機には、その電路に漏電した場合にブザーが鳴る漏電警報器が接続されていたが、漏電しや断装置は接続されておらず、また、本件洗浄機の電気コード、および、継ぎ足し用コードのうち電源側の約八・四メートルの部分は、接地線のある四心のものであつたが、右継ぎ足し用コードの本件洗浄機側の約六・六メートルの部分は接地線のない三心のもので、両者はビニールテープで継ぎ合わされてあつたために、本件洗浄機は接地されていなかつたこと、

(5)  本件洗浄機を使用して右洗びん機を洗浄する場合には、右洗びん機から多量の水が排水されるとともに、本件洗浄機から噴射された水がはね返るなどして、右洗びん機の周辺の床面は相当程度水でぬれるけれども、とくに、水がたまりやすい右洗びん機の西側および南側には、高さ約八センチメートルのコンクリートの仕切り枠が設けられていて、本件当時は、本件被害者がとくに乱暴な洗浄の仕方をしたために、本件洗浄機およびコードコネクターが置かれてあつた右仕切り枠の外側一帯の床面にまで、水がたまつたり、かなり広範囲の部分が水にぬれたものであるけれども、普通の洗浄の方法では、本件洗浄機およびコードコネクターが置かれる床面には、水がたまることはもちろん、著しく水にぬれることはなかつたこと、

(6)  本件コードコネクターは、長さ約八〇センチメートルの本件洗浄機の本体の真後ろに位置していたから、本件洗浄機から噴射された水がはね返つてぬれる可能性は少く、また、本件洗浄機から出ている電気コードが短かつたために、本件コードコネクターの一部は本件洗浄機に宙吊りの状態になつていて、その全部が床面に接触していたものではなかつたから、右洗びん機の洗浄に際し、たとえ、その付近の床面が水にぬれたとしても、内部の通電部分にまで水がしみこむ可能性は少なかつたこと、

(7)  被告人会社においては、かねてから、同会社内において使用する電気機械器具の電気コードであつて、接地線のない三心のものは、すべて接地線のある四心のものに取り替えて、右機械器具を接地させるとともに、その電路に漏電警報器をとりつけるなどして漏電事故を防止するための措置を講じており、また、本件以前には同会社において漏電事故が発生したことはなかつたこと、

(8)  本件洗浄機に接続されていた右継ぎ足し用の電気コードには、(4) のとおり、接地線のある四心のものに接地線のない三心のものが継ぎ合わされていたが、右三心の電気コードは、被告人会社の電気機械器具の電気コードを四心のものに取り替える以前に使用されていたものであつて、外観上、それが四心のものではなくて三心のものであることを識別することはできず、また、被告人会社においては、かねてからびん詰め関係の機械、器具については、本件被害者をその取扱いの主任者として、同人に平素の維持、管理を委ねてきたものであつて、右三心の電気コードの継ぎ合わせも、同人が独断でこれを行つたものと推認され、被告人塚野を含めた被告人会社の経営者は、右継ぎ合わせの事実をまつたく知らなかつたこと、

以上の事実を認めることができ、右事実と被告人塚野の捜査段階から当審公判に至るまでの供述によれば、被告人塚野は、本件洗浄機の使用により、本件のような感電事故が発生することを予見していなかつたものと認めることができる。

そこで、さらに、同被告人が本件事故の発生を予見しえたか否かにつき検討すると、右に認定したとおり、本件事故は、本件洗浄機で洗びん機を洗浄中、本件コードコネクターの中に水がしみこんだために発生したものであり、また、本件洗浄機が接地されていれば発生しなかつたものであるが、前者については、本件コードコネクターの中に水がしみこむことは、普通の方法で洗浄している限り起こりえないのに、本件においては、本件被害者がとくに乱暴な方法で洗浄したために、たまたま本件コードコネクターの中に水がしみこんだものであり、また、後者については、被告人会社においては、本件洗浄機を接地させるための措置を講じたのに、本件被害者が、勝手に、本件洗浄機に接続させた継ぎ足し用の電気コードの一部に接地線のないものを使用して、接地してあつた本件洗浄機を接地できない状態に変えたものであつて、被告人塚野にとつては、本件被害者に電気機械器具の平素の管理を委ねてあり、また、右接地線の有無を外観上識別することが不可能であつたことから、本件当時、本件洗浄機が接地されていないことを容易には知りえなかつたものであつて、以上の事実にかんがみると、同被告人が本件事故を予見することは、相当程度困難であつたものと認められる。

ところで、同被告人は、被告人会社のびん詰め業務に関する責任者であつたから、同会社の従業員に本件洗浄機を使用させる場合には、昭和四七年法律第五七号による改正前の労働基準法(以下、単に労働基準法という)第四二条第四五条により、昭和二二年労働省令第九号労働安全衛生規則(以下、旧労働安全衛生規則という)の定める基準に従い、感電事故を防止するために必要な措置を講じる義務を負い、後記二において判示するように、本件洗浄機を、右規則第一二四条の六所定の感電防止用漏電しや断装置に接続し、または、同条所定の方法で接地しなければならなかつたのに、これらの措置を怠つたのであり、その結果、本件事故が発生したものである以上、同被告人は、本件事故の発生を予見すべきであつたとのいちおうの推定を受けることは免れないところである。

しかし、右労働基準法上の義務を怠つたからといつて、直ちに、その結果発生した人身事故につき、その者が結果発生の予見可能性があつたとして業務上過失致死傷罪の責任を問われるものではないことは、いうまでもないところ、右漏電しや断装置の点については、本件洗浄機のような電圧一五〇ボルトを超える移動式の電動機械器具に右装置を接続することが義務づけられたのは、昭和四四年一月に右規則が改正された後であつて、それ以前には、右電動機械器具を所定の方法で接地すれば足りたものであり、事実、本件洗浄機が右のように接地されていたとすれば、本件事故は起きなかつたと考えられるから、本件洗浄機に右漏電しや断装置を接続しなかつたからといつて、直ちに、本件事故の発生を予見すべきであつたということはできないし、また、接地の点については、さきに判示したように、被告人塚野は、本件洗浄機が右所定の方法で接地されていたと誤信していたものであつて、右誤信をするのもやむをえないような事情も存在していたのであつて、これらのことと、さきに判示した、本件洗浄機の事故発生の危険性の程度、同被告人ら被告人会社の経営者が事故防止のために講じた措置の内容等を総合して考察すると、被告人塚野には本件事故発生についての予見可能性がなかつたと認めるのが相当であり、同被告人に本件業務上過失致死の責任を問うことはできない。

(三)  したがつて、右予見可能性があつたことを前提として被告人塚野の原判示の業務上過失致死罪の成立を認めた原判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認があり、原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。

二、控訴趣意のうち、原判示の労働基準法違反の各事実についての事実誤認を主張する点について。

論旨は、原判決は、原判示の洗びん場が、旧労働安全衛生規則第一二四条の六、第一二五条の二にいう湿潤する場所に該当するとして、被告人会社の常務取締役である被告人塚野が、本件洗浄機の電路に漏電しや断装置を接続しなかつたことが、労働基準法第四二条、第四五条、右規則第一二四条の六に、また、非防水型コードコネクターを使用したことが、同法第四二条、第四五条、右規則第一二五条の二に違反した旨認定しているけれども、右洗びん場は、二か月に一回位の割合で洗びん機を洗浄する際に多少ぬれる程度で、平素は乾燥しているから、右規則各条にいう湿潤する場所には該当せず、また、被告人会社においては、感電防止のために必要な措置を講じていたものであるから、原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認がある、というのである。

そこで、記録を調査し、当審における事実の取調の結果を参酌して検討すると、まず、右規則第一二四条の六、第一二五条の二にいう「湿潤している場所」とは、その場所が、常時湿潤しているか、少くとも、右各条所定の器具等を使用する際には常に湿潤するに至り、そのために漏電による感電事故を生じやすい場所を指すものと解せられるところ、本件洗浄機および本件コードコネクターが使用された場所は、一の(二)の(5) 、(6) において判示したように、常時湿潤していたり、これらを使用する場合に常に湿潤するものではないから、右各条にいう「湿潤している場所」には該当しないものであることは、所論の指摘するとおりである。

したがつて、本件において、非防水型の本件コードコネクターが使用されたことは、右規則第一二五条の二に違反するものではなく、また、それが原因となつて本件事故が発生したものであるとはいえ、本件事故は、右規則に従つて、本件洗浄機の電路に漏電しや断装置を接続する等の措置を講じることによつて、これを防止しえたものであるから、本件コードコネクターを使用したことが労働基準法第四二条に該当するものでもないというべきである。よつて、被告人塚野が非防水型の本件コードコネクターを右規則第一二五条の二にいう湿潤する場所で使用したとして、被告人両名の関係において労働基準法第四二条違反の罪を認めた原判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認があり、原判決は破棄を免れない。論旨はこの点において理由がある。

しかし、本件において、本件洗浄機が、その電路に漏電しや断防止装置を接続しないで使用された点については、本件洗浄機は、右規則第一二四条の六にいう湿潤した場所で使用されたものではないけれども、同条にいう対地電圧が一五〇ボルトを超える移動型の電動機械器具であつた意味において、右使用は、同条に違反するものであり、また、その結果、本件感電死事故を発生させるに至つたことからも明らかなように、右使用により感電事故が起きる危険があつたものであるから、労働基準法第四二条にも違反するものと認められ、原判決も、以上の理由によつて、本件洗浄機の右使用につき同条違反の罪の成立を認めたものと、その判文から十分に推認することができるから、この点については、原判決には所論の事実の誤認はなく、この点に関する論旨は理由がない。

三、以上のように、原判決には、原判示の業務上過失致死および本件コードコネクターの使用に関する労働基準法違反の各事実につき、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認があるので、刑事訴訟法第三九七条第一項、第三八二条により原判決を破棄し、同法第四〇〇条但書により被告人両名に対する被告事件につきさらに判決する。

(罪となるべき事実)

被告人塚野重喜次は、肩書地に本店および工場を置いて酒造業を営む被告人塚野酒造株式会社の常務取締役であつて、右工場におけるびん詰め業務を掌理し、これに従事する労働者の安全を管理する業務を担当しているものであるが、昭和四六年六月二一日右工場内の洗びん場において、同社の従業員小林豊市(当時四一歳)をして、有光機工株式会社製TB二型洗浄機を使用して洗びん機を洗浄させるに際し、右洗浄機は、使用電圧が二〇〇ボルトで移動式のものであつて、水にぬれる等して漏電する危険があつたから、被告人塚野酒造株式会社のために、旧労働安全衛生規則第一二四条の六の規定に従つて、その電路に感電防止用漏電しや断装置を接続すべきであつたのに、これをせず、右漏電による感電の危害を防止するために必要な措置を講じなかつたものである。

(証拠の標目)〈省略〉

(法令の適用)

被告人塚野の判示所為は、労働安全衛生法附則第二六条、昭和四七年法律第五七号による改正前の労働基準法第四二条、第一一九条第一号に該当するので、所定刑中罰金刑を選択し、また、同被告人の右所為は、同被告人が被告人会社の労働者に関する事項につきその代理人としてこれを行つたものであるから、同法第一二一条第一項本文により被告人会社に対しても同法第四二条、第一一九条第一号の罰金刑を科すこととし、右各所定金額の範囲内で、被告人両名をいずれも罰金三、〇〇〇円に処し、刑法第一八条により被告人塚野が右罰金を完納しないときは、金一、〇〇〇円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置することとする(なお、原審および当審における訴訟費用は、後記無罪となつた公訴事実についての訴訟費用であると認められるから、これらを被告人らに負担させることはできない)。

(無罪の理由)

本件公訴事実のうち、(一)被告人塚野が昭和四六年六月二一日被告人会社において非防水型のコードコネクターを使用した点に関する被告人両名の労働基準法違反の事実、(二)被告人塚野の小林豊市に対する業務上過失致死の事実については、さきに判示したように、いずれも、犯罪の証明がないことに帰するから、刑事訴訟法第三三六条により無罪の言渡をする。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 真野英一 裁判官 吉川由己夫 裁判官 竹田央)

弁護人長谷川修外一名の控訴趣意補充書

第二被告人両名の労基法違反の点について

原判決は、本件洗びん場が湿潤している場所に当るものであり、漏電遮断装置を接続せず、コードコネクターを防水型にしなかつたことは、労働安全衛生規則に定める危険防止措置を講じなかつたことになるとして、被告人両名につき労基法違反の責任を肯定した。

しかし、まず本件洗びん場が、労働安全衛生規則第一二四条の六第一項や第一二五条の二にいう湿潤している場所に当るかどうか甚だ疑問である。本件洗びん場では、洗びん作業中も洗びん機の清掃作業中もかなりの水を使用することは本件各証拠により明かなところであるが、被告人塚野および被告会社代表者塚野の各供述、塚野敏雄の検察官に対する供述調書、原審裁判所の検証調書によると、本件洗びん機の周囲には排水除けの縁石が設けられていて、排水が附近のコンクリート床に流れ出ないようになつているし、洗びん機の排水口には鉄板が取り付けられていて、水飛沫が周囲に散らないようになつていること、そのため洗びん機の運転中に附近のコンクリート床が水で濡れるおそれはなく、また洗びん機の清掃作業中にもそれが濡れる心配はほとんどないこと、また、たとえ洗びん機の清掃作業中に多少濡れることがあつたとしても、その清掃は二ケ月に一回位の割合で行われるに過ぎないこと、したがつて、本件洗びん場のコンクリート床は平素濡れることなく乾燥しているものであることなどの事実が認められるのである。そうすると、本件洗びん場は、二ケ月に一回位の割合で実施される洗びん機の清掃作業の際に多少濡れることもありうるというに止まり、平素は乾燥状態にあることが明白である。もつとも、本件事故発生当時、コンクリート床がかなり濡れていたことは事実であるが、塚野敏雄の司法警察員に対する供述調書によると、当日の濡れ方は異常であつたというのであるから、このようなことは異例に属するといわなければならないと同時に、当日の被害者小林の清掃の仕方に問題があつたとしなければならない。右のとおりであつて、本件洗びん場は平素は乾燥していたのであるから、これを湿潤している場所と認定した原判決は事実を見誤つたものというべきである。つぎに、証人丸山昭二、被告人塚野および被告会社代表者塚野の各供述によると、被告会社では従前三芯の移動コードを使用していたが、昭和四三年秋頃、かねて被告会社に出入りしていた丸山電気店に依頼して、右移動コード全部を四芯の移動コードに取り替え使用して来たことが明らかであるし、前掲被告会社代表者の供述によれば、右四芯コードの一芯は接地線として専用されていたことが認められるから、被告人両名は、前記規則第一二四条の六第二項に定める危険防止の措置を講じていたものということができる。もつとも、本件事故発生直後において、三芯の移動コードが四芯の移動コードに継ぎ足して使用されていたり、四芯のうちの接地線が接地されずに遊んでいたりした事実が判明したのであるが、被告会社代表者塚野および被告人塚野の各供述によると、右両名は右の事実について、まつたく関知せず、むしろ昭和四三年秋頃移動コードを取り替えてからは、四芯の移動コードだけが正しく使用されていたものと信じていたことが明らかであるから、右の点について被告人両名にその責を負わせることはできないものといわなければならない。(なお、右のような移動コードの継ぎ方を誰れがしたかについては、これを直接に確認できる資料は存在しないが、被告会社においては、電気機械、器具の維持、管理は被害者小林が行なつていたこと、右のような継ぎ方をした人物が他に見当らないことなどからすると、被害者小林がこれをしたものと認めるのが相当である。)

(その他の控訴趣意は省略する)

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